あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
表題の件について、最近の市場動向と過去の実務経験を照らし合わせて整理しておきます。
現在、金利上昇局面において「銀行株は買い」という見方が市場のコンセンサスとなっているようです。
実際にデータを見ても、長期金利と銀行株指数には強い正の相関が見られます。金利が上がれば利ざや(スプレッド)が拡大し、銀行の収益が改善するというロジックは、マクロ経済の教科書的には整合性が取れています。
ただ、かつて金融機関の現場に身を置いていた人間として、PL(損益計算書)の構造から考えると、この連想ゲームにはいくつかの「見落とされがちな変数」があるように感じます。
私が現場を離れて10年ほど経ちますが、銀行ビジネスの根幹が変わっていないと仮定した場合、以下の3点はリスク要因として考慮しておく必要があると考えます。
1. スプレッド拡大の不確実性
市場は「貸出金利は上昇する一方で、預金金利(調達コスト)は据え置かれる」という前提で収益増を見込んでいる節があります。
しかし、実態はそう単純ではない可能性があります。
- 調達競争の激化:ネット銀行や証券会社への資金移動が容易になった現在、預金金利を上げずに資金を繋ぎ止めることは過去よりも困難です。
- 貸出金利の転嫁遅れ:優良企業への貸出競争は依然として激しく、調達コストの上昇分を即座に貸出金利へ転嫁できるとは限りません。
結果として、トップライン(貸出金利収入)が伸びても、それ以上に調達コストが増加し、期待されるほど利ざやが抜けないケースが想定されます。
2. インフレによるコスト構造の悪化
銀行業は巨大なシステム産業であり、同時に労働集約的な側面も持っています。
金利上昇の背景にあるインフレは、銀行自身の運営コスト(OHR:経費率)を押し上げる要因となります。
- システム・インフラ維持:データセンターや店舗の維持にかかる電力・空調コストの上昇。
- 人件費:物価上昇に伴うベースアップ圧力。
売上の増加分が、これらの固定費増加で相殺されるシナリオも、PL構造上は十分にあり得ます。
3. 与信コストの発生と「ブレーキ機能」の低下
金融機関の収益構造において、最も警戒すべきはここです。
特筆すべき点として、日本における企業倒産件数は、2009年頃をピークに長期的な減少トレンドにありました。
コロナ禍における政策支援(ゼロゼロ融資等)による異例の低水準を含め、ここ10年以上、銀行は「大規模な倒産の波」を経験していません。これに伴い、貸出金に対する貸倒引当金繰入額の割合(信用コスト率)も歴史的な低水準で推移してきました。
この長期にわたる「平穏」は、組織としてのリスクへの耐性(免疫)を弱めている可能性があります。
- 経験値の不足:現場の中堅・若手行員は、本格的な不況期における債権回収や企業再生の修羅場を知らない世代が大半です。
- アクセルとブレーキのバランス:収益確保のための貸出(アクセル)には慣れていますが、予兆を察知して引く(ブレーキ)機能が、組織的に錆びついている懸念があります。
仮に金利収入全体で数%の増益があったとしても、ブレーキが遅れて大口融資先が一件でも破綻すれば、引当金の計上でその利益は消失します。
株価は「金利上昇」というイベントに反応しますが、決算数値は「組織の基礎体力」を如実に反映することになります。
4.まとめ
市場の反応(金利上昇=銀行株高)を否定するものではありませんが、それはあくまで「マクロ環境の変化」への反応であり、「個別の銀行の収益力強化」とは必ずしもイコールではありません。
私が現場にいた10年前よりも、むしろ「リスク管理の経験値」という点では脆弱になっている可能性すらあります。
したがって、セクター全体をまとめて評価するのではなく、コスト転嫁力や資産内容(債権の質)、そしてリスク管理体制といった「中身」まで踏み込んで見る視点が必要ではないでしょうか。
長くなりましたが、本日はこれまで、