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徒然なるままに約1000文字…金融兵士→コンサル戦士による金融系戯言録

xGとxTとは何か——W杯2026・日本代表の5失点を3つの型に分けてみた

「バイタルエリアがー」「ボランチの脇がー」。学生時代、サッカーの危ない場面をこんな感覚値でしか語れなかった記憶があります。ところが最近は、その感覚が座標とゾーンの価値として、数値で語られるようになりました。今回のW杯2026を見ていて、そのことを改めて実感した方も多いのではないでしょうか。

結論から言うと、xG(ゴール期待値)はシュート1本の決定力を、xT(期待脅威)はそこに至るまでの脅威の蓄積を数値化したものです。そして日本代表がW杯2026で喫した5失点は、サイドからのクロス、ハーフスペースへのカットイン、バイタルエリアを経由した縦パスと、入り方こそ違えど、いずれもxT的に価値の高い危険なゾーンを使われたものでした。

感覚で語っていた「危ない形」は、今どう説明されるのか

この記事では、W杯2026における日本代表の実際の失点・得点シーンを題材に、かつて感覚的に語られてきた「危ない形」が、xGとxTという指標でどこまで説明できるのかを整理してみます。以前サポーターの感情と「誰の持ち場か」を整理した記事を書きましたが、今回はデータの側から同じピッチを見てみる、という位置づけです。

xGとは何か——シュート1本の「決定力」を測る指標

xG(ゴール期待値、Expected Goals)とは、あるシュートがゴールになる確率を、シュートの角度・距離・状況などから算出した数値のことです(J-FootVizu)。ペナルティエリア至近距離からのヘディングと、30メートル先からのミドルシュートでは、同じ「1本」でも決定力がまるで違う、という違いを数値化していると考えるとわかりやすいと思います。

ポイントは、xGが「平均的な選手が打った場合」を仮定して算出される点です。誰が打ったかではなく、どこから・どういう状況で打ったかだけを見ている。だからこそ、後述するように「型」と「個の質」を切り分けて考える手がかりになります。

xTとは何か——シュートに至る前の「脅威」を測る指標

xT(期待脅威、Expected Threat)とは、ピッチをゾーンに分割し、そのゾーンでボールを持つこと自体がどれだけ得点につながりやすいかを数値化した指標のことです(Karun Singh氏のモデルを紹介した解説記事)。xGがシュートそのものを評価するのに対し、xTはそのシュートを生んだ一つ前のパスや持ち運びにも価値を割り振る、という違いがあります。

このxTの文脈でよく語られるのが「ポケット」です。ポケットとは、ペナルティエリア内でもサイドと中央の中間レーン(ハーフスペース)にあたる、ゴールに近い深い位置のことで、「ニアゾーン」とも呼ばれます。守備側の対応が遅れやすいゾーンを指します(footballista)。サイドバックが外に釣り出され、センターバックも中央を離れられないため、誰が対応するかが曖昧になりやすい。

この「危険さ」は数値でも裏づけられています。ペナルティエリア外からのシュートのゴール期待値(xG)は平均しておおむね0.03〜0.07程度ですが、ポケットのようなエリア内の深い位置からの折り返し(カットバック)で生まれるシュートは0.4前後まで跳ね上がるとされ、10倍前後の開きがあります(American Soccer Analysis)。ポケットが「危険」と言われるのは、同じ1本のシュートでも、ここを使えるかどうかで得点確率の桁が変わるからです。

日本代表はどこから失点し、どこから得点したのか

ここでW杯2026における日本代表の4試合を振り返ります。

  • 2026年6月14日 オランダ2-2日本(グループステージ第1戦)
  • 2026年6月21日 日本4-0チュニジア(グループステージ第2戦)
  • 2026年6月26日 日本1-1スウェーデン(グループステージ第3戦)
  • 2026年6月29日 ブラジル2-1日本(決勝トーナメント1回戦)

まず失点シーンです。4試合で喫した計5失点(オランダ戦2・スウェーデン戦1・ブラジル戦2)を並べてみると、危険なゾーンへの「入り方」で3つの型に分かれました。

型1:サイドからのクロス→ヘディング

対オランダ戦では、後半6分にグラーフェンベルフの右サイドからのクロスに、ファンダイクがヘディングで合わせて先制点を許しました(FIFA公式マッチレポート)。対ブラジル戦でも、後半11分に左サイドからのクロスにカゼミロがヘディングで合わせ、同点に追いつかれています(試合詳細)。いずれも「サイドからの折り返し(クロス)→ヘディング」という、最も見慣れた形です。

型2:右サイドからカットインして、ハーフスペースから左足

次の2失点は、同じ型としてまとめられます。対オランダ戦の2点目(後半19分)はサマーフィルが右サイドからカットインして左足で決めたゴール。対スウェーデン戦の同点弾(後半17分)は、ギェケレシュのパスを受けたエランガが、ペナルティエリア右角付近から左足を振り抜いたゴールでした。どちらも「右サイドからハーフスペースに入り込み、左足で巻くように打つ」という共通の形です。

ここは注意が必要なのですが、この位置はさきほど説明した「ポケット」(エリア内の深いニアゾーン)そのものではありません。その一つ外側にあたる、ハーフスペースからペナルティエリアの角にかけての帯です。ポケットとペナ角は厳密には別の場所です。ただ共通しているのは、サイドバックが前に出るのか、センターバックが横にスライドするのか、守備側が「誰が対応するのか」で一瞬迷いやすい帯だという点です。

型3:即時奪回から、バイタルエリアを経由した縦パス

残る1失点、対ブラジル戦の決勝点(後半アディショナルタイム)は、また別の入り方でした。日本がボールを持ったところをブラジルが即時に奪い返し、エンドリッキからのパスをバイタルエリア(ペナルティエリア手前の中央)で受けたブルーノ・ギマランイスが縦パスを差し込む。これを受けたマルティネッリがターンして右足で流し込みました(NHKニュース)。

サイドを崩されたわけではありません。しかし、奪い返された直後の整っていない状態で、まさに学生時代に「バイタルエリアがー」と言っていたゾーンを自由に使われ、そこから最短距離でゴール前へ差し込まれた形でした。

入り方は3通りですが、共通しているのは、いずれもxT的に価値が高いとされるゾーンを相手に使われている点です。感覚で語られてきた「危ない形」は、データが示す危険地帯と、かなり重なっているように見えます。

一方、対チュニジア戦(4-0の快勝)では、日本代表自身がこの型を得点に結びつけていました。前半4分、中村敬斗がペナルティエリア左から折り返す(カットバック)と、走り込んだ鎌田大地がヒールで押し込んで先制。後半38分にも、佐野海舟が右サイドを抜け出してふんわりしたクロスを送り、上田綺世が頭で合わせて4点目を奪っています(NHKニュース)。この2点は、まさに「ポケット・カットバック」という高xTゾーンを、日本代表自身が攻略した好例と言えそうです。

それでも「型」だけでは説明しきれないもの

ここで一つ、見落とされがちな点を挟みます。ゾーンで整理できるのは、あくまで「どこを使われたか」までだという点です。サマーフィルのカットインから左足を振り抜くまでの速さも、マルティネッリが縦パスを受けてから反転して流し込むまでの一連の動作も、同じ位置に別の選手がいたら決まっていたかというと、おそらくそうではありません。

xGが「平均的な選手が打った場合」を仮定して算出されるのは、まさにこの部分を切り離すためです。ゾーンは「どこが危ないか」を教えてくれますが、そこで実際に決まるかどうかには、個の質という別の変数が乗ります。

もっとも、型と個は対立するものではなく、むしろ相互に補完し合う関係と考えた方がよさそうです。優れた「型」とは、サマーフィルやマルティネッリのような個の質を、最も危険な場所で発揮させるための土台づくりでもあるからです。逆に言えば、守る側にとっての課題は「個の質を消すこと」ではなく、「個の質が発揮される場所に、そもそも入らせないこと」なのだと思います。

整理すると、何が見えてきたか

整理すると、学生時代に感覚で語っていた「バイタルエリアがー」「ボランチの脇がー」は、今ならxTの高いゾーン——ポケット、ハーフスペース、バイタルエリア——としてかなりの部分説明がつくのかもしれません。今大会の5失点も、クロス・カットイン・即時奪回からの縦パスと入り方は違いましたが、使われた場所という一点では共通していました。逆に最多得点となったチュニジア戦は、日本代表が同じゾーンを自分たちの武器にした試合でした。

ただし、数値だけでは説明しきれない「個の質」の部分も確かに残っています。そしてこの記事で整理できたのは、あくまで「どこを使われたか」までです。なぜそのゾーンを使えたのか、あるいは使われてしまったのか——守備の噛み合わせや選手配置といった一段深い背景までは踏み込めていません。そのあたりは、また機会があれば書いてみたいと思っています。

余談ですが、この「ポケット」の怖さ——サイドバックとセンターバックのどちらが対応するかが曖昧になり、その隙を突かれる——は、普段の仕事で見ている光景とどこか似ています。組織のリスク管理でも、営業の第一線と管理部門の第二線の境目、どちらの持ち場か決まっていない領域でこそ、問題は見過ごされやすい。誰の担当か曖昧な場所にこそ最大の脅威が潜む、という点は、ピッチの上でも組織の中でも変わらないのかもしれません。

長くなりましたが本日はこれまで。