LIFE LOG(浦和の民のblog)

うらわの民の金融blog

徒然なるままに約1000文字…金融兵士→コンサル戦士による金融系戯言録

「優しい職場」が実は一番残酷である、という構造的な話

こんにちは。 表題の件。

最近、若手の指導現場でよく耳にするのが「上司が何を求めているか分からない」、逆に上司側からは「若手にどう接していいか分からない」という悩みです。

背景にあるのは、「フラットな組織」「心理的安全性」という言葉の普及であると個人的には考えます。これは一見、風通しが良く、素晴らしいことのように思えます。

しかし、この「対等で優しい関係」が、実は皆さんの成長を止め、長期的にはキャリアのリスクになる可能性があります。なぜ「優しさ」がリスクになるのか。組織の仕組み(構造)から整理しましたので雑感として残します。

 

1. 昔の「体育会系」は、なぜ機能していたのか

まず、一昔前の「体育会系」の組織について振り返ります。 「先輩の言うことは絶対」という理不尽な文化でしたが、機能面で見ると、実は非常に効率的なシステムでもありました。

  • 迷わなくていい:「つべこべ言わずやる」というルールがあるため、行動するまでのタイムロスがない。
  • 強制的に型が身につく:自分の実力がなくても、先輩の真似をさせられることで、最低限の仕事ができるようになる(いわゆる「守破離」の「守」)。

もちろん、これは思考停止を招く古いやり方です。しかし、「何もできない時期」を強制的に引き上げてくれる「補助輪」の役割を果たしていたのも事実です。

2. 「対等」の意味を履き違えると危険

現代は、その「補助輪」が外された状態です。 ここで最大の問題になっているのが、「対等」という言葉の定義の曖昧さです。

多くの人が、以下の2つを混同してしまっています。

  • 人としての対等(Human Rights):上司も部下も、人間としての尊厳は同じ。
  • 役割としての上下(Business Roles):責任の重さと権限は、明らかに違う(対等ではない)。

職場における指示やフィードバックは、あくまで「役割」に対して行われるものです。しかし、これを「人として攻撃された」「対等じゃないのはおかしい」と捉えてしまうと、組織は機能不全に陥ります。

社会学では、古いルールがなくなって、新しいルールがまだ決まっていない不安定な状態を「アノミー(無秩序)」と呼びます※1。今はまさに、その過渡期にあると言えます。

3. 「お客様気分」が自分の価値を下げる

「会社が自分に何をしてくれるか」「配属ガチャが外れた」 こうした言葉をよく聞きますが、これは会社を「サービス提供者」、自分を「お客様」と捉えるマインド(消費者マインド)です。

会社が社員に「快適な環境」や「優しさ」を提供しすぎると、社員は無意識に「守られるのが当たり前」と感じるようになります。

しかし、これは経済合理性の観点から見ると危険な罠です。なぜなら、「守られている=市場価値が上がっていない」と同義だからです。居心地の良い環境に安住して「成長の痛み」を避けている間に、社外で揉まれた同世代との実力差は修復不可能なほど開いていきます。

4. 「ぬるま湯」からは優秀な人ほど逃げ出す

「心理的安全性」という言葉がありますが、これは本来「ヌルい環境」のことではありません。「厳しい意見を言っても大丈夫な環境」のことです※2

もし、職場が単なる「仲良しクラブ」になってしまい、成果に対する厳しさが失われたらどうなるでしょうか。

  • 成長したい人:「このままではダメになる」と危機感を感じ、会社を辞めていく。
  • 楽をしたい人:「居心地が良い」と感じ、会社に残る。

これを専門用語で「逆淘汰(アドバース・セレクション)」と呼びます。優秀な人ほど去っていき、組織全体の力が弱まっていく現象です。 皆さんがもし「今の職場は緩くて楽だな」と感じているなら、それは組織が静かに沈没しかけているサインかもしれません。

5. まとめ:プロとしての「区別」をつける

これからの時代、誰も「体育会系」のように強制的に皆さんを引き上げてはくれません。

必要なのは、自分自身で以下の区別をつけることです。

  • 上司とは「人として」対等に接する。
  • しかし、「プロとしての役割・責任」には厳格な上下があることを認める。
  • 「居心地の良さ」よりも「フィードバックの質(厳しさ)」を求める。

「優しい上司」や「フラットな職場」は、一見魅力的です。しかし、ビジネスにおける本当の優しさとは、感情的な配慮ではなく、「市場で通用する実力をつけさせること」ではないでしょうか。

長くなりましたが本日はこれまで。


参考文献

※1 エミール・デュルケーム『自殺論』(アノミー=無規制状態についての考察) ※2 エイミー・C・エドモンドソン『恐れのない組織』(心理的安全性とは「対人リスクを取れる状態」であるとの定義)