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徒然なるままに約1000文字…金融兵士→コンサル戦士による金融系戯言録

今度は使ってもらえる?~都市銀行による「ことら」の設立~

こんにちは。

表題の件。

本記事は「ことら」設立当初(2021年)に執筆したものですが、サービス開始から数年が経過し、その実態と課題が浮き彫りになってきました。

当時の「懸念」は当たっていたのか、外れていたのか。
記事の後半に「2026年時点での答え合わせ(追記)」を行いましたので、あわせてご覧ください。


※以下は2021年7月執筆当時の内容です。

仕事がバタついておりタイムリーな記事作成ができておりませんが、何事も習慣化が大事だと思いますので、今月も1記事書きたいと思います。

テーマは大手銀行が開始する決済網についてです。

「ことら」とは

みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行の3メガバンクとりそなHD傘下2行の5行によって設立され、「多頻度小口決済のための新たな決済インフラ」を運営する予定の法人です※1

背景には、近年資金移動業や前払式支払手段発行業(いわゆるプリペイド)を営む事業者が雨後の筍のような状況であり、金融機関側としても各社と接続交渉を行うことが、負担となり始めていることが想定されます。

直近ではPringがGoogleに買収されましたが※2Pringが今までの活動の中で獲得した銀行口座連携網が狙いだったのではないかと個人的には考えています。
(日本の金融システムへの接続はなかなか大変です。。。)

さて、話は戻りまして以下に、「ことら」が提供するサービスのイメージ図を持ってきましたが、「小口決済インフラ」側で接続基準等の業界標準を定め、その審査をパスした事業者にのみ接続を認める方式になるのではないかと考えます。

これによって、金融機関側も事業者毎の交渉が(すべてではないものの)、ある程度削減されますし、事業者側も金融機関口座との連携が一度に済むことがメリットとして想定されます。

(出所)3メガバンクとりそな、低コスト送金インフラ運営のことら社設立 22年度稼働 - ITmedia ビジネスオンライン

想定される懸念点

上記のように接続交渉が削減されるという稼働面のメリットが大きい想定ですが、事業者が負担するコストはどうなのでしょうか?

上記の図中にあるように(全然使われていない)J-Debitの基盤活用も選択肢の一つとあります。

少し古い資料からですが、J-Debit決済の概要を持ってきました。

f:id:urwts:20210728095245p:plain

(出典)J-Debitサービスの最近の状況について※3
(2011年12月15日日本電子決済推進機構日本デビットカード推進協議会)

上記にあるようにJ-Debitの取引電文の中継にはCAFISのネットワークが利用されており、通過する電文については処理料負担が想定されます。

近年では少額決済に対応するように料金体系の見直しも行われておりますが、「ことら」接続にあたっては、固定費(保守・運用相当)+従量課金で相応の料金負担が必要になるものと考えます。

これは推測ですが、場合によってはペイメント事業者側の負担が増加する可能性が懸念されます。

(現状の銀行⇔事業者間の料金体系によりけりとは思いますが。。。)

「ことら」への不安と期待

今まで銀行業態は様々な仕掛けを提供してきましたが、でんさい普及の初動が遅れ、金融EDI(ZEDI)やJ-Debitのキャッシュアウト等、せっかく作ったサービスが使われないという事象は何度も見てきました。

もともと課題の設定が筋悪という点もありますが、インフラの上に乗るサービスの理解が乏しいことが主な原因と考えています。

今回もどちらかというと「J-Debitの低稼動」と「金融機関側の各社との交渉負担」を問題と捉えてのサービスと想定されるため、事前にペイメント事業者の課題感を把握の上、明確な接続基準、迅速な接続審査、適切な利用料設定等使いやすいインフラとして、イノベーション促進を促してくれることを期待しています。


【追記】2026年時点の答え合わせ:インフラとしては定着したが…

上記記事から数年が経過しました。
結論から言えば、「ことら」はインフラとして一定の普及を見せましたが、当時の懸念であった「ユーザー体験(UX)の不在」「ガバナンスの課題」は、依然として(あるいはより深刻な形で)残っていると言わざるを得ません。

1. 「安さ」は実現したが「体験」は変わらず

送金手数料については、多くの銀行で「ことら送金=無料」となり、ユーザーメリットは生まれました※4
しかし、当初懸念した通り「送金前後の行動(UX)」の分断は解消されていません。

ユーザーは結局、各銀行のアプリを開き、複雑な操作を行う必要があります。「PayPay」のような直感的な送金体験には程遠く、あくまで「銀行機能の一部」という位置付けに留まっています。

2. 新たなリスク:AML/CFTの責任境界

サービス開始後に浮き彫りになったのが、リスク管理の課題です。
「ことら」により銀行と資金移動業者がフラットに接続されたことで、「送金元の本人確認(KYC)は本当に十分なのか?」という懸念が顕在化しています。

もし接続事業者の中に管理の甘い業者が混ざれば、銀行インフラ全体がマネーロンダリングの経路になりかねません。この「相互信頼」を担保するコストは、今後さらに重くのしかかるでしょう。

3. 結論:イノベーションは起きたか?

残念ながら、「ことら」によって爆発的なフィンテック・イノベーションが起きたとは言い難い状況です。
5行主導の合議制による意思決定スピードの遅さが、市場の変化(Web3.0やステーブルコイン等の台頭)に追いつけていない印象を受けます。

インフラとしては「合格点」ですが、ビジネスモデルを変革する「起爆剤」にはなり得なかった。
これが、現時点での冷徹な評価ではないでしょうか。

長くなりましたが本日はこれまで。

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参考文献・出典
※1 株式会社ことら「多頻度小口決済のための新たな決済インフラの構築に向けた新会社の設立について」(2021年7月20日)
※2 Google Asia Pacific Pte. Ltd.による株式会社pringの完全子会社化(2021年7月13日)
※3 日本電子決済推進機構「J-Debitサービスの最近の状況について」(2011年12月22日)
※4 株式会社ことら「ことら送金」サービス概要より。対応金融機関・アプリ間で10万円以下の送金が原則無料(一部例外あり)。